受注メールを確認して、会計ソフトを開いて、品名と金額を手で打ち込む。1日に何十件もこれを繰り返している。
「受発注システムは導入したのに、結局その先の転記が手作業のまま」——そんな中小企業は少なくありません。
この記事では、受発注の転記作業を自動化する方法を比較し、実際に週5時間の転記を10分に短縮した事例を紹介します。大企業向けの数百万円するシステムの話ではなく、従業員1〜50人の中小企業でも明日から使える方法に絞っています。
受発注の「転記」が最後のボトルネットになっている
受発注のデジタル化は進んでいます。COREC、楽楽販売、Board、BtoBプラットフォームなど、クラウド型の受発注システムを使っている中小企業は増えました。
でも、その先が問題です。
受注データを受け取ったあと、会計ソフト(freee、弥生、マネーフォワードなど)に転記する部分は、いまだに手作業のまま。ここにボトルネックが残っています。
なぜ転記が残るのか
理由はシンプルです。
- 受発注システムと会計ソフトが直接つながっていない — COREC の公式連携先は Square くらい。freee や弥生との直接連携はない
- CSVエクスポート → インポートの手間 — 「CSVで出せるじゃないか」と思うかもしれませんが、フォーマットが合わない、勘定科目のマッピングが必要、毎回手動でやるのが面倒
- 件数が「微妙に多い」 — 月に10件なら手打ちでいい。月に500件なら大企業向けEDIを入れる。月30〜200件くらいの中小企業が一番困っている
転記作業が引き起こす具体的な問題
「たかが転記」と思うかもしれませんが、積み重なるとこうなります。
- 時間コスト: 1件5分 × 月100件 = 月8時間以上
- 入力ミス: 金額の桁間違い、品名の表記ゆれ、日付の入力ミス
- 二重入力: 同じデータを受発注システムと会計ソフトの両方に打ち込んでいる
- 月末の地獄: 照合作業で丸1日潰れる
- 属人化: 「あの人しか転記のルールを知らない」状態
年間にすると100時間以上。パート1人分の人件費に相当します。
転記を自動化する4つの方法
受発注の転記を自動化する方法は、大きく4つあります。それぞれの特徴、コスト、中小企業への向き不向きを整理します。
方法1: Excel マクロ・VBA
概要: CSV をダウンロードして、Excel のマクロで会計ソフト用のフォーマットに変換する。
メリット:
- 追加コストゼロ(Excel があればできる)
- カスタマイズの自由度が高い
デメリット:
- VBA を書ける人が社内に必要
- CSVダウンロード自体は手動
- マクロが壊れたら直せる人がいない(属人化リスク)
- 受発注システム側のフォーマットが変わると動かなくなる
中小企業への向き不向き: △ Excel に強い人がいれば使えるが、長期運用は厳しい。「作った人が辞めたら終わり」になりがち。
方法2: RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)
概要: 画面操作を自動化するソフトで、「受発注システムからコピーして会計ソフトに貼り付ける」操作をロボットにやらせる。
メリット:
- プログラミング不要(ノーコードで設定できるツールもある)
- 既存のシステムをそのまま使える
デメリット:
- ツール自体のコスト(月1〜10万円)
- 画面のレイアウトが変わると止まる
- 動作が不安定になることがある(特にクラウドサービスの画面更新時)
- 中小企業には設定・保守のハードルが高い
中小企業への向き不向き: △ 大企業ではよく使われるが、中小企業だとコストと保守の負担が見合わないことが多い。ユーザックシステムやBizteXが事例を出しているが、年間数十万円のコストがかかる。
方法3: OCR(光学文字認識)+ AI
概要: FAX や紙の注文書を AI-OCR で読み取って、データ化する。
メリット:
- FAX・紙の注文書を処理できる唯一の方法
- AI-OCR の精度は年々向上している
デメリット:
- 読み取り精度100%にはならない(人のチェックが必要)
- そもそもクラウド受発注システムを使っているならデータは既にデジタル — OCR の出番がない
- 導入コストが高め
中小企業への向き不向き: × 「受発注はまだFAX」という企業には有効。でもこの記事の読者(受発注システム導入済みで転記が課題)には関係ない。
方法4: API ベースの自動連携
概要: 受発注システムと会計ソフトを API(アプリケーション間の通信インターフェース)でつないで、データを自動で流す。
メリット:
- 完全自動化(人の操作が不要)
- データの正確性が高い(コピペミスがゼロ)
- 画面変更の影響を受けない(API はシステムの裏側で通信するため)
- 設定後はメンテナンスがほぼ不要
デメリット:
- 受発注システムと会計ソフトの両方が API を公開している必要がある
- 自前で構築するにはプログラミング知識が必要
- 連携ツールを使う場合、月額費用がかかる
中小企業への向き不向き: ◎ もっともおすすめ。COREC、freee、マネーフォワードなど主要なクラウドサービスは API を公開している。自前構築は難しいが、連携ツールを使えば設定だけで済む。
4つの方法の比較表
| 方法 | 初期コスト | 月額コスト | 自動化の度合い | 保守の手間 | 中小企業向き |
|---|---|---|---|---|---|
| VBA/マクロ | 無料 | 無料 | 半自動 | 高い | △ |
| RPA | 5〜30万円 | 1〜10万円/月 | 半自動 | 中程度 | △ |
| OCR | 10〜50万円 | 1〜5万円/月 | 半自動 | 中程度 | × ※ |
| API連携 | 無料〜10万円 | 0〜2万円/月 | 完全自動 | 低い | ◎ |
※ 紙・FAX が主な受注手段の場合は ◎
結論から言うと、すでにクラウド受発注システムを使っているなら、API ベースの自動連携が最適解です。RPA は「API がないシステム同士をつなぐ苦肉の策」であって、API が使えるならそちらを選ぶべきです。
実例: COREC → freee の転記を週5時間から10分に
ここからは具体的な事例を紹介します。
導入前の状態
ある中小企業(従業員15名、小売・卸売業)では、COREC で受注管理をして、freee で会計処理をしていました。
毎日の作業フロー:
- COREC にログインして新規受注を確認
- 受注内容を目視で確認(品名、数量、金額、取引先)
- freee を開いて、取引として手入力
- 入力内容を元データと照合
- 月末にまとめて請求書発行
問題点:
- 毎日30分〜1時間の転記作業
- 週に換算すると約5時間
- 月末の照合で追加2〜3時間
- 金額の入力ミスが月に2〜3件発生
- 担当者が休むと翌日にまとめて処理(残業の原因に)
Saturn(API 自動連携)を導入
受発注データの自動連携ツール Saturn を導入して、COREC → freee の転記を自動化しました。
導入後の作業フロー:
- COREC で受注(ここは変わらない)
- Saturn が自動で受注データを取得
- freee に仕訳データとして自動登録
- 担当者は例外処理(イレギュラーな注文)だけ確認
結果:
- 転記作業: 週5時間 → 週10分(例外確認のみ)
- 入力ミス: 月2〜3件 → ゼロ
- 月末照合: 2〜3時間 → ほぼ不要(データが一致しているため)
- 担当者の休暇: 業務が止まらない(自動で処理されるため)
年間に換算すると、約240時間の削減です。時給1,200円で計算しても年間約29万円。パートを1人雇うのに近い効果があります。
ポイント: なぜ RPA ではなく API 連携を選んだか
この企業も最初は RPA を検討していました。でも、以下の理由で API 連携を選びました。
- 安定性: RPA は COREC や freee の画面が変わるたびに設定し直す必要がある。API 連携なら画面変更の影響を受けない
- コスト: RPA ツールは月数万円。Saturn は無料プランで始められた
- 速度: RPA は画面操作をなぞるので遅い。API 連携は瞬時に処理される
- 精度: RPA は画面の読み取りミスがある。API 連携はデータをそのまま渡すのでミスがゼロ
自動化する前にやるべきこと
「よし、自動化しよう」と思ったら、いきなりツールを導入する前にやるべきことがあります。
1. 現状の転記作業を棚卸しする
まず、今どれだけの時間を転記に使っているかを計測してください。
- 1件あたり何分かかっているか
- 月に何件処理しているか
- 月末の照合にどれくらい時間がかかっているか
- ミスはどれくらいの頻度で発生しているか
「なんとなく面倒」ではなく、数字で把握することが大事です。月に5件しかないなら、手入力のままでいいかもしれません。
2. 受発注システムと会計ソフトの組み合わせを確認する
API 連携は、両方のシステムが API を公開していることが前提です。主要なサービスの API 対応状況を確認しましょう。
API を公開している主な受発注システム:
- COREC
- 楽楽販売
- Board
API を公開している主な会計ソフト:
- freee
- マネーフォワードクラウド
- 弥生会計オンライン
この組み合わせに該当するなら、API ベースの自動連携が使えます。
3. 例外パターンを洗い出す
完全に自動化できるのは「定型的な取引」です。以下のようなイレギュラーは、最初から自動化の対象外として分けておきましょう。
- 値引き・割引がある取引
- 返品・キャンセル
- 複数の勘定科目にまたがる取引
- 特殊な消費税区分
大事なのは「100%自動化」を目指さないこと。80%の定型取引を自動化するだけで、工数は劇的に減ります。残り20%の例外は、人が判断したほうが正確です。
「受発注システムを導入しましょう」では解決しない
ここで、この記事と競合他社の記事の違いについて正直に書きます。
「受発注 自動化」で検索すると、上位に出てくる記事のほとんどは「受発注システムを導入しましょう」「EDI を入れましょう」という内容です。それはそれで正しいのですが、受発注システムを既に使っている企業の課題には答えていません。
問題は「受注をデジタル化する」ことではなく、**「デジタル化した受注データを、会計ソフトに自動で流す」**こと。
受発注システムと会計ソフトの間にある「転記」という名の溝。ここを埋めるのが、API ベースの自動連携です。
大企業なら ERP を導入して全部一気通貫にできます。でも中小企業にはそんな予算もリソースもない。今使っている受発注システムと会計ソフトを活かしたまま、間の転記だけを自動化する。それが現実的な解決策です。
よくある質問
Q. 無料で自動化できますか?
Excel マクロなら無料ですが、保守コストを考えると割高になりがちです。API 連携ツールには無料プランを提供しているものもあります。Saturn は無料で始められます。
Q. 導入にどれくらい時間がかかりますか?
API 連携ツールの場合、受発注システムと会計ソフトのアカウント連携(OAuth 認証)と、勘定科目のマッピング設定で、最短30分〜1時間で使い始められます。RPA の場合は、シナリオ作成に数日〜数週間かかることが多いです。
Q. セキュリティは大丈夫ですか?
API 連携は、各サービスの公式 API を使います。ログイン情報を預ける必要はなく、OAuth という仕組みで「このアプリに、この範囲だけアクセスを許可する」という形で連携します。RPA のように画面にログイン情報を入力させるよりも安全です。
Q. COREC 以外の受発注システムにも使えますか?
Saturn は現在 COREC → freee の連携に対応しています。楽楽販売、Board など他の受発注システムへの対応は、ユーザーの要望に応じて順次開発中です。弥生会計オンラインやマネーフォワードクラウドへの対応も検討しています。
まとめ
受発注の転記作業を自動化する方法を4つ比較しました。
- VBA/マクロ: 無料だが属人化リスクが高い
- RPA: 汎用的だが中小企業にはコストと保守が重い
- OCR: 紙・FAX の処理には有効だが、クラウド受発注を使っているなら不要
- API 連携: クラウドサービス同士をつなぐ最適解。完全自動、低コスト、高精度
すでに受発注システムを使っている中小企業にとっては、API ベースの自動連携がもっとも費用対効果の高い方法です。
受発注のデジタル化は「受発注システムの導入」で終わりではありません。その先にある「会計ソフトへの転記」まで自動化して、はじめて本当の効率化が完成します。