受注担当者の朝はこうだ。
出社する。FAX を確認する。注文書が 5 枚来ている。1 枚目は A 社。品番が自社の管理番号と違うので、品番対照表を開いて照合する。2 枚目は B 社。手書きで、文字が潰れている。読めない。電話して確認する。3 枚目は C 社。EDI で来ているが、専用サイトにログインしてダウンロードしないと中身が見れない。
全部を基幹システムに入力し終わるのが昼前。午後には次の FAX が届いている。
転記がなくならない構造的な理由
BtoB の受発注では、注文書のフォーマットが取引先ごとにバラバラだ。
ある会社は Excel で送ってくる。別の会社は専用の発注システムから PDF を出力する。手書きの FAX もまだある。EDI で来る場合は、取引先ごとにログイン先が異なり、データ形式も違う。
この「100 社 100 フォーマット」を、自社の基幹システム(1 つのフォーマット)に手入力で変換するのが、受注担当者の仕事だ。
問題は 3 つある。
① 時間がかかる。 1 件あたり 2〜8 分。1 日 30〜100 件処理している現場では、転記だけで 1 日が終わる。事務員 6 人で分担している会社もある。
② ミスが出る。 数量の見間違い、品番の取り違え。間違いに気づくのは出荷後であることが多い。顧客対応でさらに時間が取られる。
③ 属人化する。 「この顧客の『5 双組』は実は 5 双のことで……」という暗黙知が、ベテラン担当者の頭にだけ入っている。引き継ぎが不可能。
既存の解決策とその限界
RPA
画面操作を記録して再生する。EDI サイトへの自動ログイン、データダウンロード、基幹システムへの入力をスクリプト化できる。
ただし、取引先ごとに EDI の画面が違うので、スクリプトを取引先の数だけ作る必要がある。画面レイアウトが変わるたびにメンテナンスが発生する。導入コストも年間数十万〜数百万円。
ある製造業の担当者は「RPA のトライアルをしたが、設定が大変すぎて断念した」と語っている。
OCR(光学文字認識)
紙の注文書やFAXをスキャンしてデジタルデータに変換する。文字の読み取り精度は上がっているが、「読み取ったテキストのどこが品番でどこが数量か」を判定するのは OCR の範囲外だ。
結局、OCR で文字を起こしたあとに、人間が「ここが品番」「ここが数量」と判断して入力する工程が残る。
EDI 統一規格
全取引先が同じ EDI フォーマットを使ってくれれば、転記は不要になる。だが現実には、EDI 対応している取引先とそうでない取引先が混在し、7 つのシステムを併用している会社もある。統一は理想論で、実現には業界全体の合意が必要だ。
AI が変えたこと
AI(LLM)は、フォーマットがバラバラでも「これは品番」「これは数量」「これは納期」を文脈から判断できる。
A 社の注文書で「品番」と書かれている欄と、B 社の注文書で「製品コード」と書かれている欄が同じ意味であることを理解する。手書きの崩れた文字も、周囲の文脈から推測して読める。
さらに、品番の対照表を AI に渡しておけば、取引先の品番を自社の品番に自動変換できる。ベテラン担当者の頭にだけあった暗黙知を、AI が学習して再現する。
受発注転記の自動化 3 ステップ
① 注文書を取り込む
メール添付の PDF、FAX をスキャンした画像、EDI サイトからダウンロードしたファイル。形式を問わず、テーブルに取り込む。
② AI が項目を抽出する
注文書の中身を AI が読み取り、品番、品名、数量、単価、納期、送付先をセルに自動で埋める。取引先ごとのフォーマットの違いは AI が吸収する。
品番の対照表を設定しておけば、取引先品番 → 自社品番の変換も自動で行われる。
③ 受注担当者が確認する
AI が埋めたテーブルを確認する。不明な箇所は黄色でハイライトされる。問題なければ、基幹システムへのデータ連携に進む。
コスト比較
事務員 6 人で受注転記をしている会社の場合:
| 方式 | 月間コスト | 備考 |
|---|---|---|
| 手入力(現状) | ¥594,000 | 6 人×3h/日×22 日×¥1,500 |
| RPA | ¥50,000〜¥300,000 | 導入 + 月額 + メンテ人件費 |
| AI 転記 | ¥30,000〜¥100,000 | 月額 + 確認工数 |
手入力のコストは「事務員の給料だから固定費」と思われがちだが、その事務員が転記以外の仕事に時間を使えるようになるなら、実質的にコスト削減と同じだ。
どういう会社に向いているか
- 取引先ごとに注文書のフォーマットが異なる
- FAX・メール・EDI が混在している
- 受注転記に 1 日 2 時間以上かけている
- ベテラン担当者の暗黙知に依存している
- RPA を検討したが複雑すぎて断念した
まとめ
受発注の転記が自動化できないのは、注文書のフォーマットが 100 社 100 通りだからだ。
ルールベースの RPA では対応しきれない。OCR ではテキスト化はできても項目判定ができない。EDI の統一は業界全体の問題で 1 社では解決できない。
AI は、フォーマットの違いを文脈で吸収し、品番の対照表で暗黙知を再現する。100% の精度ではないが、50 件を手入力するのと、AI が埋めた 50 件を確認するのでは、所要時間が桁違いに変わる。
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