経理の現場で、今でもこんな光景がある。
モニターに定規を当てて、Excel の行を 1 行ずつ追いながら、紙の請求書と突き合わせる。合っていたらセルに色をつけて、紙にペンでチェックを入れる。50 件終わったら次の取引先。これを月末に 3 日間やる。
大げさに聞こえるかもしれないが、実際にやっている会社は多い。Yahoo 知恵袋にも「納品書と請求書を Excel で照合したい」という質問が複数あり、閲覧数は数千に達している。
なぜ突合が自動化できないのか
突合作業は単純に見えるが、実はルールベースでの自動化が非常に難しい。
まず、フォーマットが統一されていない。A 社の納品書は「品名」だが、B 社は「商品名」。C 社は「摘要」。同じ商品でも、発注時に「耐熱チューブ φ10」と書いたのが、請求書では「耐熱チューブ 10mm」になっている。人間なら同じものだと分かるが、VLOOKUP では一致しない。
次に、金額が一致しない場合がある。数量変更、一部返品、値引き、端数処理。納品書の合計と請求書の合計が 100 円ズレている。その 100 円が正しいのか間違いなのか、元の伝票を遡って確認する必要がある。
そして、紙で届く請求書がまだ多い。PDF ならまだマシだが、FAX で届いた納品書を 1 枚ずつ見ながら Excel と照合するのは、効率化のしようがない。
Excel で頑張る方法(限界あり)
VLOOKUP と MATCH 関数を組み合わせれば、2 つの Excel シートの照合はできる。注文番号が共通キーになっていれば、金額の一致・不一致を自動で判定できる。
ただし、前提がある。
- 納品書データと請求書データが、どちらも Excel に入力済みであること
- 共通のキー(注文番号、伝票番号)が両方に存在すること
- 表記ゆれがないこと
この 3 つの前提を満たすケースは、実務では少ない。納品書は紙だったり、請求書はメール添付の PDF だったり。キーが違う名前で記載されていたり。
Excel で照合するためには、まず Excel に手入力する工程が必要になる。突合の自動化ではなく、手入力のあとの半自動チェックにすぎない。
AI が変えたこと
AI(LLM)は表記ゆれを理解する。
「耐熱チューブ φ10」と「耐熱チューブ 10mm」が同じ商品だと判断できる。「5 双組」と「5 双」が同じ数量単位だと分かる。「株式会社山田製作所」と「㈱ヤマダセイサクショ」が同じ会社だと分かる。
これは VLOOKUP にはできなかったことだ。
2 枚の PDF を投げ込めば、AI が両方の中身を読み取り、品目ごとに照合し、一致・不一致・差額を表として出力する。フォーマットが違っても、表記がズレていても、AI が文脈で判断する。
突合を自動化する 3 つのアプローチ
① Excel マクロ + VLOOKUP(手入力前提)
- 両方のデータを Excel に入力済みであれば有効
- 共通キーが必要(表記ゆれがあると一致しない)
- コスト: 無料(自作)
- 限界: 手入力の工程は自動化されない
② RPA で画面操作を記録
- 定型の画面遷移を自動化(EDI からデータ取得 → 基幹システムに入力)
- 画面が変わると壊れる(UI の 1px の変更でセレクタが死ぬ)
- コスト: 年間数十万〜数百万円
- 限界: 判断が必要な照合は RPA では対応できない
③ AI による照合
- PDF を直接読み取り、表記ゆれを吸収して照合
- フォーマットの違いに対応(レイアウトが毎回違っても動く)
- コスト: 月額数千円〜
- 限界: 100% の精度ではないため、不一致箇所は人間が最終確認
確認は省略しない
AI が「一致」と判断しても、最終確認は人間がやるべきだ。特に金額が大きい取引では、AI の判定結果をレビューする工程は省略しない。
ただし、確認の負荷がまったく違う。
手作業の突合: 50 件を 1 件ずつ照合する(全件を精査) AI 突合のあと: 50 件中 47 件が「一致」、3 件が「要確認」と表示される。確認するのは 3 件だけ。
50 件全部を見るのと、3 件だけ見るのでは、所要時間が 10 分の 1 以下になる。
どういう会社に向いているか
- 月末に納品書と請求書の照合を手作業でやっている
- 取引先ごとにフォーマットがバラバラ
- VLOOKUP を使っているが表記ゆれで一致しない
- 突合に月 10 時間以上かけている
- 担当者が 1 人で、ダブルチェック体制を組めない
まとめ
突合作業の本質は「2 つのデータが同じものかどうかを判断する」ことだ。
VLOOKUP は完全一致しか判定できない。RPA は画面操作を記録するだけで判断はできない。AI は表記ゆれを吸収して、文脈で「同じ」か「違う」かを判断できる。
モニターに定規を当てる時代は、もう終わっていい。
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