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2026-03-05
#バックオフィス #転記 #中小企業 #業務効率化 #経理 #手作業

中小企業のバックオフィス、月何時間が「転記」に消えているか


「うちの経理、何にそんなに時間がかかっているんだ」

中小企業の経営者が一度は抱く疑問だ。

答えは単純で、データの転記に時間が消えている。

あるシステムに入っているデータを、目で読んで、別のシステムに手で打ち込む。この作業が、中小企業のバックオフィスのあらゆる場所で、毎日繰り返されている。


転記が発生する場所

中小企業の典型的なバックオフィス業務を棚卸しすると、転記作業がどれだけ遍在しているかが分かる。

経理・会計

業務転記元転記先発生頻度
受注→請求書受発注システム(COREC等)会計ソフト(freee等)受注のたび
請求書→振込請求書PDFネットバンキング月末
経費精算レシート・領収書会計ソフト月次
売上集計ECサイト・POSレジ会計ソフト日次〜月次
入金消込通帳・ネットバンキング会計ソフト月次

営業

業務転記元転記先発生頻度
名刺→CRM名刺管理アプリCRM(Salesforce等)商談のたび
問い合わせ→CRMメールCRM問い合わせのたび
見積→受注見積書受注管理システム成約のたび
商談記録メモ・頭の中CRM商談のたび

人事・労務

業務転記元転記先発生頻度
勤怠→給与勤怠システム給与計算ソフト月次
応募者情報→管理表メール・求人媒体Excel・ATS応募のたび
入退社手続提出書類社労士システム入退社のたび

総務・その他

業務転記元転記先発生頻度
契約管理契約書PDFExcel・契約管理ツール契約のたび
在庫管理発注書・納品書在庫管理Excel入出荷のたび
備品管理購入レシート管理台帳購入のたび

業務ごとの転記時間を計測する

それぞれの転記作業に、実際にどれくらいの時間がかかっているのか。1件あたりの所要時間と、典型的な月間件数から推定する。

受注→請求書の転記

1件あたり:約2〜3分

受発注システムで受注詳細を確認し、会計ソフトで請求書を新規作成し、取引先を選択し、品目・数量・単価・税率を入力する。

月間受注件数月間転記時間
20件40〜60分
50件100〜150分
100件200〜300分(3〜5時間)

請求書→振込データの転記

1件あたり:約3〜5分

請求書PDFを開いて銀行名・支店名・口座番号・金額を読み取り、ネットバンキングに入力するか、Excelに転記して全銀フォーマットに変換する。

月間請求件数月間転記時間
10件30〜50分
30件90〜150分
50件150〜250分(2.5〜4時間)

名刺→CRMの転記

1件あたり:約2〜3分

名刺アプリからCRMに、会社名・氏名・役職・メールアドレス・電話番号を手入力する。商談メモがあればそれも追記。

月間名刺枚数月間転記時間
20枚40〜60分
50枚100〜150分
100枚(展示会月)200〜300分(3〜5時間)

メール問い合わせ→CRM/管理表の転記

1件あたり:約3〜5分

Gmailの問い合わせメールを開いて、差出人名、会社名、問い合わせ内容を読み取り、CRMやExcelの管理表に分類しながら転記する。

月間問い合わせ件数月間転記時間
10件30〜50分
30件90〜150分
50件150〜250分(2.5〜4時間)

勤怠→給与計算の転記

1件あたり:約1〜2分(従業員1人分)

勤怠システムからCSVをエクスポートして、給与計算ソフトにインポートする……と言いたいところだが、フォーマットの不一致があるため、Excelで手修正が入ることが多い。残業時間の端数処理、有給休暇の残日数確認、各種手当の反映。

従業員数月間転記時間
10人10〜20分
30人30〜60分
50人50〜100分

経費精算の転記

1件あたり:約2分

レシートや領収書をスキャンして、日付・金額・支払先・勘定科目を会計ソフトに入力する。

月間経費件数月間転記時間
30件60分
100件200分(3時間20分)
200件400分(6時間40分)

合計すると

従業員30人、月間受注50件の中小企業を想定して合算してみる。

業務月間転記時間
受注→請求書125分
請求書→振込データ120分
名刺→CRM75分
問い合わせ→管理表90分
勤怠→給与計算45分
経費精算150分
その他(在庫、契約等)60分
合計665分(約11時間)

月間約11時間。年間132時間。

営業日が月20日だとすると、月に約半日分の業務時間が転記に消えている。

しかもこれは「順調に転記できた場合」の数字だ。転記ミスの発見と修正、画面の読み込み待ち、電話やチャットでの中断、参照先の確認。実態はこの1.5〜2倍と考えるのが妥当だ。

実質的には、月16〜22時間。年間200〜260時間。丸10日以上が転記に消えている。


転記ミスのコスト

時間だけではない。手作業にはミスが伴う。

人間の転記ミス率は一般に2〜5%と言われている。月間500件の転記作業を行う場合、3%のミス率なら月15件のミスが発生する。

ミスの種類と影響

ミスの種類発生場面影響
金額の打ち間違い請求書→振込過払い・不足→組戻し手数料880円
口座番号の入力ミス振込データ作成振込失敗→手数料+再手続き
取引先の取り違え受注→請求書誤請求→取引先との信頼失墜
税率の間違い請求書作成インボイス制度違反リスク
勤怠時間の転記ミス勤怠→給与給与計算ミス→従業員の不信感
二重入力各種転記データの重複→集計の狂い

金銭的な損失だけでなく、ミスの発見・修正にかかる時間、関係者への謝罪・報告の時間、信頼回復にかかるコスト。これらは転記時間には含まれない「隠れたコスト」だ。


なぜ転記は減らないのか

SaaSが普及して、個別の業務は効率化された。freeeで請求書を作るのは、紙の伝票を書くより速い。Eightで名刺を管理するのは、名刺ホルダーを繰るより速い。

でも、ツール間のデータ移動は効率化されていない

freeeの中は速い。Eightの中は速い。でもEightからfreeeにデータを移すのは、人間の手作業だ。

これは各SaaSの責任ではない。連携を作るかどうかはビジネス判断であり、すべてのSaaS同士をつなぐことは物理的に不可能だ。

結果として、SaaSの島と島の間を、人間がボートで行き来している。

「Excelで管理すればいい」の限界

「だったらExcelに全部入れればいい」という考え方もある。

事実、多くの中小企業はExcelを中間層として使っている。CORECからCSVで出して、Excelで整形して、freeeにインポートする。Eightからエクスポートして、Excelで加工して、Salesforceにインポートする。

Excelは万能だ。どんなフォーマットにも対応できる。計算もできる。マクロを書けば自動化もできる。

問題は2つ。

  1. CSVフォーマットの変換は手作業:列名の変更、日付形式の変換、コードの対応付け。毎月やる。
  2. マクロを書ける人が辞めたら止まる:Excel VBAの属人化問題。RPAと同じ構造。

人件費に換算する

転記作業の時間を人件費に換算してみる。

バックオフィス担当者の時給を2,500円と仮定する(年収400万円、年間1,600時間稼働)。

企業規模月間転記時間(推定)年間転記時間年間人件費
従業員10人5〜8時間60〜96時間15万〜24万円
従業員30人11〜22時間132〜264時間33万〜66万円
従業員50人20〜35時間240〜420時間60万〜105万円
従業員100人35〜60時間420〜720時間105万〜180万円

従業員50人規模の会社は、年間60万〜105万円を「データをコピーして貼り付ける」作業に払っている。

この金額で何ができるか。新しいSaaSを1つ導入できる。バイトを1人雇える。展示会に1回出展できる。あるいは、100時間分の「本来やるべき仕事」に充てられる。


「自動化すべき」ではなく「自動化されるべきだった」

転記作業は、本来人間がやるべき仕事ではない。

データはすでにデジタルで存在している。CORECの中に受注データがある。Eightの中に名刺データがある。Gmailの中に請求書PDFがある。すべてデジタルデータだ。

デジタルのデータを、人間が目で読んで、手で打ち直して、別のデジタルシステムに入れる。これはアナログ時代の名残だ。紙の伝票を転記していた時代のワークフローが、SaaSの時代にもそのまま残っている。

ツールがクラウドになっても、ワークフローがクラウドになっていない。


何を自動化すべきか

すべての転記を一度に自動化する必要はない。効果の大きいものから順に。

優先度の判断基準

基準高優先度低優先度
月間件数50件以上10件未満
1件の所要時間3分以上1分未満
ミスの影響金銭的損失あり影響が小さい
頻度日次・週次年1〜2回
判断の有無判断不要(コピペ)判断が必要

「月50件以上 × 1件3分以上 × ミスの影響が大きい × 判断が不要」に該当する業務が、自動化の最有力候補だ。

多くの中小企業では、受注→請求書請求書→振込データがこの条件に当てはまる。月間の合計時間が最も長く、金額のミスが直接的な損失につながり、作業自体に判断は不要だ。


まとめ

中小企業のバックオフィスでは、月間11〜22時間、年間130〜260時間が転記作業に消えている。

転記先がfreeeでもマネーフォワードでも、転記元がCORECでもEightでも、構造は同じだ。デジタルのデータを、人間がアナログ的に読み取って、別のデジタルシステムに手で入力する。

この作業には人件費がかかり、ミスが混入し、本来やるべき仕事の時間を奪う。

ツールは進化した。しかしツール間のデータの「橋渡し」は、いまだに人間の手に委ねられている。

月に11時間。年に130時間。この数字を「仕方ない」と受け入れるか、「なくす」と決めるか。それはバックオフィスの運用方針の問題だ。


この記事の転記時間は、中小企業の一般的な業務フローに基づく推定値です。実際の時間は業務内容、ツールの種類、担当者のスキルによって異なります。

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